初夏らしさ全開の「トワイライトシンドローム~探索編~」を遊びました!
1996年にHUMANから発売された横スクロール探索のホラーアドベンチャーゲーム。
世に出て30年近い歳月が過ぎ去った2024年に偶然にも巡りあえたことがすべてのはじまりでした。
作品と同じ時代を少なからず記憶に片隅に残っている程度に生きた身には画面の中で生き続ける時代描写があまりに鮮烈で…。
ノスタルジーにひったひたに浸りすぎたあまりに、この強烈な懐かしさを共有したくなり、筆を走らせて(キーボードを叩いて)います。
では作品を知っている方も!知らない方も!
1996年に一緒にタイムスリップ!
語らってまいりましょう!
Since.1996 Summer
物語の主役は1996年を生きる女子高生3人組(トリオ)。
端的に片付けてしまえば、JK3人が「ウワサ」を検証していくおはなしになってしまうのですが…ここで扱われているネタがとにもかくにも、時代を映し出していて実に良いのです。
ホラーテイスト×女子高生のマリアージュに、熟成された時代というスパイスが加わり、上等かつとんでもないものが出来上がっています。
第一の噂「心霊写真量産公園」
これを聞いた(見た)だけでもうザワついて、手に取りたいと思った人がいると思うのですが?
…そうでしょ?
ほかにも「トイレの花子さん」「学校の七不思議」といった王道を貫くはずさないあたり。
さらにこの世界に惹きこまれて抜け出せなくなること請け合い。
肝試し的なノリや深夜の学校探検ってどうしてこうもワクワクしてしまうのでしょうか…
そんな本作の魅力は何と言っても、当時(90年代中盤~終盤)の風潮や流行といった”時代”が色濃く反映されていること。これにより時が経ってこその味わい深さが生まれています。
この魅力は自動的に年々積み重なっていくというある種の恐ろしさだとも言えるでしょう。
本作には巷のカルト的人気にもうなずける魅力が詰まっていて、世間の評価に納得する完成度(ゲームシステムだけは除く)。のっぺり目のビジュアルのテイストもたまらない。
なによりここまで手放しに賞賛してしまうのは、筆者が同じ時代を生きていたことが大きいのかもしれません。
遊んでいる途中で意図せずもひっぱり出された、アニメ「学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!」、映画「学校の怪談」、ドラマ「金田一少年の事件簿(堂本剛版)」を見ていた幼きころの記憶に触れて、なぜだか泣きそうにすらなったほど…。
「あの頃は良かったなぁ…」と簡単に嘆けるほどのキラキラした思い出は少ないし、消したい記憶もあったりする。だけれど、そんなことを吹き飛ばすくらいのインパクトで、(大人になった今振り返ることで)ぐっとこみあげてくる誰しもたくさん持っているであろう記憶の断片が自分は一気に蘇ってきたのでした。
脳裏に映し出されたワンシーンが「なぜ今もまだ自分の中に残っているのか?」と思うような些細なものだったりもしましたが、その何気ない日常の1ページこそをキラキラしたものに思えて、「忘れたくない、忘れてはいけない」と思わされました。
こんな風にゲームによってリアルな感情を動かされたことが久しぶりで…今回感想を書き残しておくに至ったわけです。書く理由のほぼ全てと言ってしまっちゃうくらいには……。
等身大の人間描写
そんな本作がここまでのノスタルジー作品としての印象が強くなっているのは、当時の女子高生の生活を描写した「リアリティ」の部分にあると言えるでしょう。
これは日常の会話ひとつを取っても。
たとえそれが制作当時の「当たり前」として描かれているのだとしても、年月の経過がこの色味の魅力をさらに際立たせています。
さらに1996年に高校生として生きる彼女たちが日常生活を送る範囲の世界で成されていく物語でありながら、そこに絡むネタは「非化学現象」という温度差・ギャップには快感すら覚えてしまうほど。
では、ここにきて(ようやく)登場人物の話をしましょう。
メインキャラクターは先に言った通り女子高生3人。
その中でビジュアルの面、キャラクター性で目に付くのは唯一の1年生・岸井ミカで間違いありません。
ルーズソックスを履き、ポケベルは当然のように使いこなし、持ち前の愛想の良さで立ち回る。さながら流行に過敏に反応するなど、(当時の)THEイマドキ高校生を絵に描いたようなキャラクター。何にでも首を突っ込み悪知恵のはたらくトラブルメーカーそのものポジで、追及する「ネタ」の出所の大体がミカとなっています。
そんな学年の人気者のであるミカは、1年先輩の一匹狼(風にふるまう)長谷川ユカリに憧れていたりする。
しかし後輩にも一目置かれるユカリにも悩みは多い…。
親の離婚、教生との関係と失恋…多感な時期の不安定な感情を押し殺すために強がった態度で斜に構えてはいるが、心はオトナになれてなり切れていないのも事実。
ミカの持ってくる「ネタ」と彼女の心の内が重なりを見せることで、謎の解明への欲求、真相を追うことになるという行動心理に繋がっています。メタ的ですが、彼女の日常とその背景描写があることでストーリー性も兼ね備えているというのも良い点だと思います。
そんなユカリの事を心配し、先輩としてミカの相手もし、探索のお供となるのは、ユカリの親友で良き理解者の逸島チサト。
箱入り娘でまっすぐに育てられた俗にいう優等生タイプの彼女は、霊感があることを生かす面が多い。ゲームとしてはモブ味が強いがキャラですが、実際プレイヤーが投影しやすい一般人の思考と常識を持ち合わせているのは彼女だと言えるでしょう。
オトナになった今触れる身としては、ミカの私が世界の中心ムーブも、ユカリの反抗期描写もカワイイ程度のイキりと空目で見てはいられるんですが、やっぱりどことなく鼻には付くわけで。
それは筆者が圧倒的にチサトポジで生きてきたという、傍から見ればキラキラしている側への劣等感的温度を感じてしまうからなのかもしれません。こんなところでリアルを感じたくはないし、チサトに失礼な気もしてしまいますが…(笑)
それだけ3人それぞれにキャラクターが確立されていて、その解像度は作中同様に時間経過とともにより鮮明になっていきます。ポリゴンでありながらもその特徴は捉えられており、走り方やしぐさなど(あえてボカされた)風貌を生かした表現となっています。
そんな学年違いもある3人組の関係性が、時間経過(話数の消化)で変化を見せていくのですが、ここがまた良く出来ています。
はじまりは同じ学校の親友関係の先輩と後輩。
そこからなんとなく行動を共にする中で構築されていく関係性。
序盤に顕著に感じたのがミカの描写。
自身の好意のベクトルのままにド直球でかましてくるユカリとチサトへの対応の違いでプレイヤーに気まずさを感じさせ、ザワザワさせてきたことは忘れない!!!(笑)
確かに、憧れの先輩(ユカリ)の親友とは言え、取り巻きに用などないミカからするとチサトにあたりが強くなるのも致し方がない…とは思います。
しかしそれはチサトについても同じで、親友の前をちょろちょろする後輩を大人の対応でいなしている…と、このあたりのリアルさまでプレイヤー側がひしひしと感じられるセリフが上手いんです。
細かいところで言えば、一話での関係が構築できていない中での一幕。
チサトが無鉄砲な行動への危険を察知し、彼女なりに良かれと思って取った行動に対してミカがブチキレての発言。男子の殴り合いとは違う女子特有の報復の思考においても、時代とキャラクターが表現されています。
さらに個人的に一番刺さったのは、ある程度理解し合えて来たかな?と思ったあたりで、深まってきたからこその不満が生まれ、口論が起きた第三話。
揉めたきっかけ、その後の反応、対応、仲直りまでの一連の流れで3人の立ち位置が完全に出来上がったと思えました。そこまでの段階的な距離感の描写もふまえて、それぞれの行動やセリフの解像度の高さ、プレイヤー側がそれらに納得出来たというのが大きいです。
噂話
彼女たちが解明していくのは、先にも述べたとおり「噂話」や「都市伝説」の類。
本作(探索編)は「トワイライトシンドローム」シリーズの1作目にあたり、続編の2作目である究明編との前後編。探索編は一話~四話、究明編は五話~十話と、計10個の「噂」が扱われています。
内容については、いずれも現代ではSNSで一瞬にして拡散、論破されて終わってしまうだろうな…といった気持ちにもなるレベルで、現代において言葉を選ばずに言えば「くだらねー」の代物(笑)
とはいえ本作が描くのはインターネットもSNSも存在していない約30年近く前。
友人の謎の関係各所から伝え聞いたり、テレビや雑誌で知り得る情報が全てです。リアルタイムではないし、信ぴょう性なんて一ミリもない。しかしそれが彼女たちの日常であり、生活に刺激を与え、彩った景色だったわけで…
なによりこれこそが30年後を生きている我々が遊んでこそ味わうべき醍醐味と言わせてもらいましょう!
さらに当時(今からしても)等身大の女子高生の姿と精神的な成長が描かれた本作。
思春期相応の悩みやプライドを抱えながら多感に生きる彼女たちと共に、恐怖すらも時にコミカルに時間を共有していきます。
この塩梅が最高。
連絡方法は公衆電話や家電がメインであったり(ポケベルはある)、録音方法のゴツさであったり、写真を撮るのはインスタントカメラで現像が必要。いずれも速効性や利便性はありません。
つまりはこの「ままならなさ」こその味わいがあるってこと。
作中で人生を謳歌するミカも…ユカリも……チサトも………いまやもうアラフィフに差し掛かりかけてるっていうんだから、時の流れは何とも言えない気持ちにさせてくれる…が、彼女たちのその後を想像するこれもまた一興。
雰囲気(世界観)
作品のベースとしてはホラーよりもオカルトテイストな印象で、端的には「幽霊(霊的存在)がいる」とされた世界観であり、これは《ルール》と割り切って楽しむものです。
怖いかと言われると…怖くはありません。ただここは完全なる好みの領域でしょう。
さらにこの前提でありながらも、幽霊だから何でもあり的な部分に頼って都合よく流す使い方というわけではありません。
噂になり得た経緯であったり、事情であったり、具体的にいうと幽霊が成仏できずにいる理由(願い、心残り、怨念)…それゆえの物語として完成してます。ここが非常に好感を持てた点。
いずれも霊になってから始まるお話のため、ハッピーエンドとは言えない悲しさや切なさを残していきます。しかしそこにはほんの少しの想いを乗せていて余韻に浸らせてくれます。
もうひとつ推したいところとして、本作の環境音や表現による臨場感が秀逸。
時期は入学(進級)後、少し落ち着いてきて夏が近づくあたり。
一話の公園の蒸し暑さ、二話の雨音とピアノの調和、三話の駅のホームに流れ込むじめり気、四話のひたひたと歩く学校の廊下、些細な描写や音で味わう初夏の雰囲気表現は芸術といえるでしょう。
システム
ゲーム進行は噂(謎)に起因する1話ごとに完結の構成。
少しずつ歳月は経過していきます。
ゲームクリアとしては謎の解明を目指す中で登場する選択肢や、プレイヤーの探索(操作/捜査)による解明度合いで分岐し、「凶」・「中吉」・「大吉」いずれかのエンドを迎えます。
たとえば「凶」は、何もわからぬまま散々な最期を見せられたり…。
ちなみに「大吉」エンドに到達しないと次の噂話に進むこともできません。
そこに追い打ちをかけるように、話を開始するとエンド到達まで全くセーブが出来ないという…。
選択肢や探索要素が複数ある中で、間違ったり、取りこぼしがあった場合「大吉」エンドに辿り着くことが出来なければ、また最初からやり直しです。
ヒント的なおたすけ要素もなく、失敗から学ぶ、何度も試すというのが前提の鬼仕様。(発売当時はこれが普通だったとは思いますが)現代では不親切でめんどくさいシステムとしかいえないのが残念…。
それでも本作の面白さは折紙付き。
ガイドブック(攻略本)片手に、楽しんでいただけたらこれ幸い!
本作を遊ぶ!(シリーズを整理)
さいごに…ここまで辿り着いたあなたはきっと「トワイライトシンドローム」を遊んでみたい!と思ったということでしょう?
ややこしいことに「トワイライトシンドローム」の名を冠した作品が複数あるので、おせっかいにも整理しておきますね。
今回紹介した「トワイライトシンドローム 探索編」は明確につづき、「トワイライトシンドローム 究明編」に繋がっています。
ちなみに「探索編」だけはパッケージデザインが2種類あったり、「探索編」と「究明編」の2作品が1つになった「トワイライトシンドロームスペシャル(SP)」の存在があったりと混乱しやすいのですが、いずれも内容は一緒(変更なし)です。
その他類似の「トワイライトシンドローム 再会(PS1)」「トワイライトシンドローム 禁じられた都市伝説(DS)」「ムーンライトシンドローム(PS1)」など続編(姉妹)的作品がのちに生まれていますが(一部おまけ的に出てくるキャラクターはいるものの)いずれも独立した作品です。
では楽しい「トワイライトシンドローム」ライフを!