今回紹介するのはSteamで遊んだ「シロナガス島への帰還(シロナガス島への帰還 -Return to Shironagasu Island-)」です。
「シロナガス島への帰還 -Return to Shironagasu Island-」とは…?
「シロナガス島への帰還(シロナガス島への帰還 -Return to Shironagasu Island-)」は、アドベンチャーゲーム製作ブランド「TABINOMICHI(旅の道)」の鬼虫兵庫氏が個人で作られた、ミステリーアドベンチャーゲーム(ビジュアルノベル)です。
本作はCD1枚の「同人ゲーム」から始まり、2020年3月にSteam版がリリース。その後クラウドファンディングを経て、2022年11月に(豪華声優)ボイスが付いて家庭用ゲーム機(Nintendo Switch)でパッケージ版&ダウンロード版が発売されることが決まっています。
クラウドファンディングは目標額を開始3時間で達成、最終的には目標の1323%もの金額が集まるなど、現在への勢いのある情報から、作品自体の内容は知らない中でも「それだけの人気がある(人気が出た)、評価の高い作品」という認識で、今回(Switchでの発売を待たずに)Steam版を遊んでみました。
あらすじ
ニューヨークで探偵業を営む中年男/池田戦(いけだせん)と、彼の助手で”完全記憶”という超人能力を持つコミュ障こじらせ少女/出雲崎ねね子(いずもざきねねこ)。
この名(迷)コンビは、今回の依頼人のもとへと向かうため、一悶着ありながらも空港にて合流を果たす。
今回の依頼人とは、依頼人は大富豪ロイ・ヒギンズの娘であるエイダ・ヒギンズ。
彼女は父(ロイ・ヒギンズ)の遺書の中に残された意味深な言葉と『シロナガス島への招待状』を見つけ、怪しげで謎に包まれた絶海の孤島「シロナガス島」へ彼女の代理人として訪問することを池田に依頼してきたのだった。
「シロナガス島」へ向かった池田とねね子。
同じく集められた富豪(とその関係者)たち。
到着から間もなく巻き起こる奇怪な事件、不穏な空気、怪物の存在。
2人は推理を働かせながら、呪われた島に隠された真実へと近づいていく…。
感想
まずはじめにクリアしての感想から早速ですが、”個人制作だからこそ評価したい”点が多い傑作でした。
シナリオ(のまとまり)、演出面、ゲーム性のバランス、CGの豊富さ、いずれのクオリティも高い水準です。
なによりこれらが伴ったものをひらめき、個人が形に出来ている、作品として昇華されたことにただただ凄い…としか言いようがありません。
特に「絶海の孤島(迎えは4日後)」「連絡手段の断絶」「鉄の手動扉と橋で繋がった2つの建物」などテンプレート要素を集めた”ありがち”っぽい第一印象からの飛躍。
この手の作品…すなわちド定番ともいえるクローズドサークルもので、(まだ)驚きを感じ、心を揺さぶられる物語が生まれているのです。
個人的には(1人で作られているからこその)表現の統一性も(読み進める中で違和感を抱かなかったのが)良かった点。
価格がワンコインの500円という破格も相まって圧倒的に値段以上の満足感がありました。ちなみに定価の安さも去ることながら、頻繁にセールもしている印象です(筆者はセールで200円で購入)。
この価格の点について、マフィア梶田氏との対談にて制作者の鬼虫兵庫氏は「元々フリー(無料)でもいいかなと思っていた」「儲けようとは思っていない」との発言があったり…。それでいて現在の価格になったのは「(安くても)ユーザーがお金を払って買う」ことで生まれる”費用対効果”の意識と、”それによるリスクと評価”の在り方、ユーザーと対等な立場になるという考えには非常に納得しました。
もちろん制作には多大な時間と労力、技術があってこそで、それが価格に反映されることは当然ですが、本作はそこを度外視した提供の結果として、プレイユーザーを増やすことが出来たと言えます。
これらも対談でも触れられていることですが、プレイヤーがまず作品を手に取ること、自身が遊んだあと第三者に勧める上で価格はかなり大きなポイントであり、(Steamギフトを含めて)勧められた方も(手軽だから)買ってみよう/遊んでみようとなる可能性が高いと言えます(2022年現在・販売本数9万本を達成しています)。
本作は二次創作、同人/グッズ制作(R-18含む)、全編実況動画配信、想像しうる個人利用の(ほぼ)全てが許諾されている太っ腹っぷり。
とにかく随所に感じられるのはシンプルに「好きだから、作りたいから、遊んで欲しいから」という制作者の作品への愛と熱量です。
★2021年販売本数2万本達成時の鬼虫兵庫氏へのインタビュー記事で「個人制作に対する思い」など作品に対するあれこれを存分に知ることが出来ます。
ゲームシステム
それではゲーム本編の話に戻って…進行の基本はテキストとCGによるノベル形式で会話もコマンド総当たりとシンプルです。
その合間には探索パートが挟まりますが、こちらもオーソドックスなポイント&クリックシステムで、画面内の怪しい場所、気になるアイテムを調査することで物語が進んでいきます。
操作判定や導線はしっかりとしており、行き詰まってしまう原因はほぼ「同じところをもう一度確認(まだ読み終わっていない)」で解消されるはずです。
他にもバッドエンドに連行される制限時間のある判断(選択肢)や爆弾処理操作など物語にリンクした状態で生み出される緊張感も絶妙でした。本編のみのクリアタイム(プレイ時間)は約7時間。
CGはゲーム自体のボリュームからするとかなり多く、バッドエンドも複数準備されています。
ひとつ、イラストとはいえ遺体をクリックで入念に確認(調査)したり、検視ではこれでもかとばかりにエグ目の単語表現が駆使されているため、この手の描写(文字から想像が広がる)が苦手な人は注意が必要なレベルです。
SwitchのCEROレーディングが「D(17歳以上対象)」であることからも相応のものであると思っていただけるかと…。
キャラクター
物語の中心にいるシロナガス島内の人物は、池田とねね子を含めて11人。
人数については多い/少ない、横文字名前が覚えづらいなどは多少あるかと思いますが、キャラクターは全員それぞれに見た目も含めて個性があります。
なにより作中において自然な見せ場、活躍(メタ的にいえば存在意義)と犯人については動機背景もしっかり描かれており、主人公2人は去ることながらすべての人物に好意または嫌悪を抱き、思い入れが出来るほど人物描写は丁寧です。
ちなみに、ねね子は見た目を含め、かなり性癖を感じるキャラクターですが(笑)、これも個人制作の良さであり、企業イメージを気にしない嗜好全振りの表現になっています。
ただやはり、不潔(臭い)、極度な瘦せ型、貧乳など極端に好みは割れそう(刺さる人にはめっちゃ刺さりそう)…というのが正直なところ。
小説好きにオススメしたい
本作で個人的に印象に残ったのは、良くも悪くもCGに頼っておらず、文章においての(説明しすぎるぐらいの)親切さ。それでいてしつこさや冗長を感じない運びは、知識を伴った文章力と構成力の賜物です。
キャラ同士のやりとりの中で「なんで?」「じゃああれは?」という指摘やツッコミをプレイヤーが感じる暇がなく、ご都合主義のない自然な会話が作中で展開され完結しています。これは逆に不自然な言動には確実に裏があるとも言えます。
これによって消去法で犯人(対象人物)捜しをするうえで、プレイヤーがいざ考察する際に、それまでに提示されていた要素で整理が出来る、自然と導かれるようになっています。
”ひっかけ”を披露する池田の「探偵」という役割は気持ち良くハマっており、前述のとおりキャラクターの存在感を感じられた点の一つです。
犯人捜しはシンプルなもので、本格ミステリー派は物足りないと思いますが本作の売りはそこではないというか…むしろトリック部分が分かりやすい、理解しやすいものだからこそ、隠された真実にインパクトを感じることが出来たのではないかと個人的には思います。
なにより、”犯人X”を予測出来ていたとしても、真相(犯行に至るまでのストーリー)そのものに味わいを感じることは間違いありません。
個人の好みはありますが、怒涛の終盤の展開も個人的には痺れましたし、(惜しい犠牲は数あれど)悪人に対して相応の報いを受けさせ、託された未来を感じることが出来るラスト、余韻を残しつつも後腐れのないまとまりを見せたところも良かった点です。
そしてなによりも「シロナガス島”への”帰還」というタイトルが秀逸。”の”でも、”から”でもなく、”への”であり、意味(真相)を知った今となってはこのタイトルしかありえないなぁと感嘆します。
タイトルの意味がストーリー(真相)に直結しており、分かった時、繋がった時に心が揺さぶられたほど(泣いた)。この衝撃はプレイしてこそ味わうべきもので、この「記憶に残る物語」を是非多くの方にご自身で堪能していただければと思います。
さいごに…
11月発売のSwitchダウンロード版は豪華声優ボイスがついて750円とのこと(ボイスがついても500円で売ろうとしていたとか…!)。パッケージ版ですら2,000円ちょっとです!!!
興味が沸いた方は(個人的にはこの手の作品は声なしの良さもあるとも思いますので)フォーマットはご自身の好みで是非!
© TABINOMICHI