【新作レビュー】「South of the Circle(サウス・オブ・ザ・サークル)」/クリア後感想&レビュー

Steamにて配信開始されたばかりのアドベンチャーゲーム「South of the Circle(サウス・オブ・ザ・サークル)」のクリア後感想&レビュー記事です。

以下、本作のSteam版のスクリーンショットを掲載しています。ストーリーにおける核心的なネタバレを行っていませんが、作品の性質上スクリーンショットで読み取れる情報も多いかと思います。未プレイの方は閲覧の判断にご注意ください。
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「South of the Circle」とは…?

「South of the Circle(サウス・オブ・ザ・サークル)」は、「11 bit studios」より2022年8月3日にリリースされたイギリス発のナラティブ(物語性の強い)アドベンチャーゲームです。

本作はダウンロード専用タイトル(パッケージ版の発売未定)となっており、(現状購入可能な)対応機種はPC(Steamなど)とXboxだけのようです(海外ではPS4/5やSwhichでも配信済みのため、日本での配信もありそう)。日本語には字幕対応しています(完璧)。

クリアまで約3時間のプレイで味わったのは、繊細かつ丁寧に描かれた1960年代のイギリスの時代背景

そこに生きる中で政治的情勢など大きなうねりに翻弄されていく1人の男の心理描写との融合。そして人生の岐路を、”現在”と”過去”の行き来を通して描く表現の芸術性の高さに感銘を受けました。

扱っているテーマや向き合う問題もそうですが、言葉のチョイス、文章の深みからも大人向けの1作という印象です。

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物語(あらすじ)とテーマ

舞台は1964年、猛吹雪の南極。

不時着した小型飛行機の中で目覚めたケンブリッジ大学教員のピーター(主人公)とパイロットのやり取りから物語は始まります。

現在状況における情報は極めて少なく、むしろ彼(彼ら)は「今、なぜ、ここにいるのか」ということ(ここまでの歩み)自体が、救助を求め南極を彷徨うことになるピーターの記憶、共同研究者で恋人関係にあった同僚のクララとの出会いからの思い出の数々を追想することで明らかになっていきます。

物語は「南極条約」「冷戦」といった実際の出来事/1960年代のイギリスとソ連の当時の緊張感のある関係を扱っており、登場人物たちそれぞれが持つ思考や感情、政治的な軋轢は、2022年の島国に生きる筆者の立場からは直感的に理解することが難しい側面もありったり…。

とはいうものの、プレイヤーが味わう大部分としては、”仕事のキャリア””恋人のクララ”を天秤にかけざるを得なかった、どちらかを選ぶしかなかった「ピーターが直面した苦悩と現実」という、いつの時代にも通ずるリアルでシビア、でもとてもシンプルな問題(課題)であるように感じました。

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「South of the Circle」の感想

物語性の強さ

クリア(スタッフロール)を迎えた時に筆者が抱いたのは「遊んだ」というよりも「味わった」というナラティブ全振りだからこそのゲームではあまり得ることがないような新鮮な感覚。

非常に文学的で直接的な表現を避けた言葉選びの中で、日本語字幕も上手く作用しています。違和感を抱く場面は全くなく、むしろよくここまで深く翻訳されたな~と感嘆します。

ほとんどが会話で成り立っている物語ということもあって、このおしゃれなローカライズが刺さる人もきっといることでしょう。

これは第一にゲーム(攻略)性という要素が本作は皆無に等しいことが理由であると言えます。アドベンチャー(ADV)というジャンルの時点でその点(ゲーム性の低さ)を理解している人が大半だとは思いますが、そうだとしても「これはゲームか?」とはなりそうです。

しかし、本作が(あえて)ゲームである醍醐味としては、目の前で起きていることをピーターの感情の動きを”操作することによって”知る、理解する、時に選ぶというプレイヤーとのインタラクティブ性を生かすためであるように思いました。

小説や映像作品のように【誰かの物語を見ている】のではなく【自分を投影する】という表現が出来るのがゲームの魅力と言えるのではないかと、そしてそれを最大限に生かすことが出来ている作品です。

そんな操作の面でメインとなるのは、丸いアイコンで表示されるピーターの感情(発言)の選択。感情の動きを知らせる1つ(操作要求)から、制限時間を伴う複数の中から1つを選ぶものもあります(2択が一番多く、最大3択)。

ただしこの感情表現(選択)においては人格形成をするような明確で極端なものではありません。特に1つの感情の中に3つの意味があり、たとえば(狼狽/困惑/心配)が同一感情といった具合で、これは時に意図しないような発言となって、ひっかかる場面や選択の必要性を感じないこともあるかもしれません。この辺についてはあくまでもインタラクティブ性を加えるための要素と割り切るのがいいかと思います。

現在と過去

筆者が印象に残ったのは、南極を彷徨う”現在”と、恋人と過ごした”過去”が切り替わる場面転換の表現の豊富さと、その量を含めた介入タイミング。そしてそれらが物語において意味(意図)を感じることが出来るという点。

現在と地続きで思い出(過去)に突入する演出(とその戻りも)が見事としか言いようがなく、これは遊んでこそ味わって欲しい魅力です。

たとえば下記の動画。

現在:スイッチ操作で電気が走り驚く 過去:やかんの熱さに驚く

このように同様(類似)事象が自然にリンクするといった具合で、乗り物の運転や気候変化、建物の形状など様々にバリエーション豊富に描かれています。

特に広大な白銀の世界である”現在”の悪く言えば抑揚のない画面(視覚)や、遠く見える目的地までの単調な道すがらを埋める、色どりのある”過去”の思い出が印象的でした。

グラフィック自体は版画のようなフラットさではあるものの、これこそが色彩による表現の重みを増しており、クララとの出会いに始まり、彼女と歩んだ風景、気候、関係性(距離感)を示すイベントが良いアクセントとなっています。

時に、上手くいかない研究、教授からのプレッシャー、同僚の昇進など甘くはない現実にも直面しますが、これもまた違った色(表現)で味わうことが出来ます。

会話、ラジオ、資料など、視覚聴覚から提供される情報量と(物語を理解する上での)その無駄のなさ(悪く言えば必要最低限)、演出も個人的には好みでした。

ナラティブの中に溶け込んだ目的地(ルート)や、探索箇所、隠されたオブジェクトも直感的に理解することが出来るカメラワークも良かった点。

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賛否が生れそうなエンディング

感情における選択は数多くあり、中にはプレイヤー個人の決断を強調し、印象付けるアイコンが表示されることもあります。しかしそれに反して導かれる先であるエンディングは(おそらく)1つです。

残念ながらプレイヤーの選択がピーターの人生に与える/与えられる影響はなく、都度直面した場面における会話(発言)の違い、感情表現の違いを楽しむといった程度です。すなわち、どれだけ愛を貫こうとも、頑固に生きようとも、権力に抗おうとも、(きっと自覚もある)綺麗ごとを並べるほどに「(当時の)現実は甘くはない」ということを突きつけられることになるでしょう。

結果として「良かれと思ってやった」ことの全てが否定されるような受け取り方をしなくてはいけないかもしれません。

ただピーターが迫られた決断は(今よりも強い)性別の違いによる格差に始まり、彼の置かれた立場を明確に描き出しており、判断材料、問題提起として(言い方は良くないですが)絶妙かつ上手いのです。

いずれにしても「クララとは別れる運命にあった」と受け入れざるを得ない要因と時代を上手く描き出していたと言えるリアリティ、完成度。だからこそ心に少し傷を負ってしまうこともあるでしょう。

筆者はプレイヤーに託されたエンディングの余韻をしばらくはただゆっくりと味わいたいと思います。

クリア後はメイキングで本作の魅力を堪能することをお忘れなく!

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