今回は複数のジャンル要素を持ちあわせ、それらが融合した良質なアドベンチャーゲーム「ワールドエンド・シンドローム」を紹介します。
「ワールドエンド・シンドローム」とは…?
「ワールドエンド・シンドローム」は2018年8月にアークシステムワークスより発売されたアドベンチャーゲームです。公式サイトでは「ミステリー×恋愛アドベンチャー」という触れ込み。
対応機種はPS4、PSVita、Switchで、筆者はSwitchのパッケージ版をプレイしました。
CEROは15歳以上対象の[C]。個人的にはミステリー、恋愛どちらの面も制限がかかるほど過度な描写や表現はなかったように感じました(おそらくコンプラ的な要素によるもの)。
特にミステリーやサスペンス的なグロさは(ほぼ)ないので、その点を心配している人には気にするほどではないと伝えておきます(個人の感想です)。
物語(あらすじ)
百年に一度、死者が蘇り禍(わざわい)をもたらすと云われる「黄泉人伝説」。
この伝承が残る田舎町「魅果町(みはてちょう)」に主人公が訪れる電車の中から物語は始まります。
百年に一度の伝承の年に起こった「2人の女子学生行方不明事件」をきっかけに浮き彫りになっていく、町に潜む謎の数々。
被害者が共通して所持していたのは「黄泉人伝説」をモチーフに書かれた小説「ワールドエンド」。
そして「小説の映画化」に伴うこの夏の撮影と、出演を熱望したアイドル「二階堂玲衣」。
映画のスポンサーであり、町の名家「神代家」と、かつて肩を並べる存在だった「甘奈家」の関係性。
さらにローカルラジオ番組「ワールドエンド・シンドローム」で伝承にまつわる意味深な言葉を投げかける正体不明のDJ「月丘ひかる」。
事件と伝承の関係を取材(調査)に来たライター(外部者)など、主人公はこれらすべての出来事と人物たちに関わっていくことになります。
そしてひょんなことから参加することになった「ミステリー研究会(通称:ミス研)」での交流を通して伝承の謎、物語の真相へと近づいていきます。
今作にちりばめられた伏線の数々は、公式サイト内に作品雰囲気を踏襲した、【魅果町の真実に迫る】というサイトページが準備されています(プレイ前後どちらでも楽しむことが出来ます)。
物語の流れ
本作は【序章】/【本編(女の子5人の個別ルート)】/【真相編】という3部構成になっています。
【序章】…主人公が魅果町に転校してきた6月の初めから7月30日までの期間。
【序章】では町の雰囲気や人物間の関係性などを絡めた概要説明的なダイジェストになっており、選択肢はほぼなく(選択肢の影響はなく)読み物といった印象です(日数も飛び飛びです)。
そして1周目は7月30日を迎えた時点で【WORSTEND】と呼ばれる8月31日のバットエンドを強制的に迎えることになります。その選択肢しかないからです。
初見では何もわからないままストーリー上最悪な終末を見せられるわけですが、可能性のある展開(未来)を1度見ることによって、7月30日に再び舞い戻った際(2周目)に生まれる新たな選択肢に気づき、「【WORSTEND】を迎えないために。」という意識でプレイヤーは【本編】へと進んでいくことになります。
次に物語の中心となる【本編】は、主人公の夏休み(8月1日~)の約1ヶ月間。
アドベンチャーゲームとしての選択肢が存在し、登場する女の子それぞれとの交流が中心となる個別ルートが準備されています。ここでは(ほぼ)決められた順番で5人分すべてのストーリー見る(攻略する)ことになります。
【本編】において、(好みで)攻略するという自由度は低いですが、物語自体を取りこぼしなく段階的に理解する上で半強制的にでも決められた流れがあってよかったと個人的には思いました(これについては最終盤にしか思いませんでしたが…)。
ただ【本編】でそれぞれの女の子とのエンドを迎えることを繰り返し、すべての女の子を攻略したうえで【真相(編)】に導かれるというのは、本作はループ物ではないので実質最後の一人が公式ルートということなのでしょう。そういった意味ではそこまでの皆(女の子たち)をおざなりにしている感もあったりしましたけどね(笑)
最後の【真相編】は本作の謎に対する答え合わせとなっており、読み物です。
~【真相編】への入り方~
【本編】5人分終わった後にトップページに戻ると、
【真相編】のボタンが出現しています。
※検索ワードに多かったので追記しました。
ゲームシステム
5人の女の子と過ごす夏休み
攻略が始まるのは【序章】と(1度目の)【WORSTEND】を見終えて迎える【本編】8月1日から。
1日3回(朝/昼/夜)の自由行動があり、その都度タウンマップの中から訪れる場所(エリア/スポット)を選びます。選択する場所⇒お目当ての女の子に会う⇒好感度が上がるという、至ってシンプルなギャルゲーや恋愛シュミレーションゲームといったシステムです。
ただしマップ上のどのスポットにお目当てのキャラがいるのかは表示されていません。
”その日”を過ごす、訪れる(イベントを見る)と次の子のルートでは同日のマップ上に既読であること(キャラの存在)が表示されるようになります。これは同じ期間(8月1日~)を5人分見るという周回要素において各ルートを進めていくごとに情報が増えていく仕様ですが、序盤のノーヒント状態で出会うのはまさに運でしかありません。
ただ所在が見えない(わからない)とはいえランダムで出没しているわけではなく固定所在のため(裏でもストーリーは存在しているため)、どこかでちゃんと出会えるようになっています(トライアンドエラーで解決)。
一応個別ルートに入ると個人の行動範囲が把握でき、所在は多少わかりやすくはなりますし、探す必要のない約束(待ち合わせ)や強制イベントも発生します。
トライアンドエラーに際してセーブとロードはクイックではないものの各行動(朝/昼/夜)の度に可能(セーブは一日の最後にもあり)なのでやり直しも容易です。ちなみにセーブスロットは100個あります。
注意点としては前述の通り攻略の順番が決まっている(制御されている)ため、自分の好みなど自由に攻略していくことは出来ません。ロック解除要素(好感度が満たないと解放されない)もあるのである程度は攻略情報を見てしまうのもアリだと思います。
あと既読スキップ速度は最大にしてもやや遅いかなと感じました。これは周回要素によって、既読スキップしたい場面が多かったので気になりました。とはいえ全然許容範囲レベルではあります。
本作の魅力
筆者は公式サイトから漂う雰囲気、物語性、世界観に惹かれたことで本作を購入しました。
プレイを開始してからもオープニングムービーにノイズが入り場面が切り替わる演出の時点で「間違いない!」と確信する程にセンスが光っています。
グラフィック
「伝承が息づく長閑な海町でのひと夏」を魅せる、豊富なスポットや多数の背景描写によって本作の世界観が確立されており、そのどれもが町の雰囲気を作り出しています。
絵のタッチやテイストは好みが出る話ですが、個人的には抜群に好みで、画面から伝わってくる夏の雰囲気、うだる蒸し暑さ、日向と日陰の温度感、夜は涼しさも共存する加減が素晴らしく、引き込まれることは間違いありません。
絵でここまでのことが伝わってくることに驚きもしましたし、天気、昼夜の違いもありバリエーションも豊富。手抜きが一切ありません。
更に印象的だったのは波、水槽の魚、風車、扇風機など背景の中のどこか一部が動いていたりすること。それらは環境音と相まって雰囲気をさらにアップさせています。
なにより背景描写にだけ注目出来たり、ここまで吸引力のある作品は中々ないのではないでしょうか。
表現の幅
本作は立ち絵といえども…正面、後ろ姿、横顔の使い分けがあり、あわせて上下左右、四方向への動きや寄り引き、その速度によって多数の表現が生まれています。
これは立ち絵のみ(読み物ゲー)でありながらも、その表現の限界に挑戦していると言いますか、むしろあえてその枠をはみださないように最大限の表現をしていると感じました。
細かな芸がオシャレさを感じます。
こだわり
物語に大きく関わってこないような小物(アイテム)やロゴ、アイコンなどについても説明込みでデザインも作り込まれていてこだわりを感じます。本編に重要な関わりではないと言えども、この些細な描写もまた作品世界を盛り上げている要素です。
たとえば神代家が経営する世界的菓子メーカー「神代堂」。
(攻略対象の1人)神代沙也がその家のお嬢。だからお金持ち。というバックボーン説明のための存在で一言で片付けられそうな部分において、代表的な商品名(複数)やCMまで準備されています。
これによって沙也ルートや花子ルートと共に「神代堂」にもインパクトを残すあたりがうまいです。
場面の切り替わり
アドベンチャー部分、テキスト部分と時々に入るムービーの切り分け、メリハリのつけ方が秀逸で、これは”センス”という表現が一番わかりやすいかなと思います。
場面の切り替わりにインパクトがあり、1本の映画作品のような流れる展開をゲームという媒体でプレイしながらに味わうことが出来ます。これはゲームだからこそ珍しい、その珍しさが魅力的なポイントであり、力が入っていると感じた部分です。
これらの部分を芸術的観点で味わうだけでも得るものがあると言えます。
コンプリート要素
ワード収集の「Tips」、物品の「コレクション」、イベントの「ミッション」などのコンプリート要素も十分。本編を交えながらの共存要素であり、遊び心満載の楽しめるポイントです。
本編の補足としての作り込みが素晴らしかったです。
魅力的なキャラクターたち
作中には攻略する女の子たち以外にも印象的なキャラクターがたくさん登場します。
それぞれに個性と魅力があり(描かれており)、イベントで関わったり、町で行動する彼らにお目にかかることもあります。
キャラクターの多さと丁寧な描写もまた物語を複雑怪奇な方向に働かせており、楽しくも怪しく存在感を放っています。
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