全体的な感想
惜しい:ボリューム不足
ゲームボリュームについてはとにかく”短い/少ない”これに尽きます。
すべての人物の視点をプレイ(クリア)して総プレイ時間は10時間ほど。マコト編からはヒント機能を使って最短距離でクリアしましたが、総叩きだったとしても~1時間くらいしか変わらないかと。
プレイ時間が長ければいい、ボリュームがあれば(あるだけ)良いというものではありませんが、今作に関して言えば、圧倒的に「説明不足」と「消化不良」を感じてしまいました。
魅惑の世界観、練られた(練られていそうな)設定、登場キャラクターそのどれもが「もっともっと深堀りして欲しかった」「終わった後に知りたいことが多すぎる(謎が残りすぎ)」「作られたものたちが最大限に生かされていない(描写不足)」と思わされるのです。
まず今作をクリアしただけでは、【DESIRE(デザイア)】の”真相”を100パーセント理解できたと言える人はいないと筆者は思います。
逆を返せば良い点であるとも言える…かも?
ただ【DESIRE(デザイア)】で行われている研究内容や特殊装置など初期設定的な部分に関して言えば、深堀りできない点も(多々)存在するのかもしれません。
深堀りすると違和感や突っ込みどころが露呈してしまう(増えてしまう)とか、そもそもそこまでは考慮していないとか、制作時の要因もあるのかもしれません。
更にそれらをプレイヤーに委ねることによって(その点を含めて)物語が成り立つという風にも捉えることもできます。本編内での情報の少なさはヒント的な意味合いでの提示とも取れたり、そういう作品があってもいいのかもな…と思ったりもします。
良く言えば考察する余地はとんでもなくあり、悪く言えば丸投げに近いです(笑)
惜しい:人物描写不足
考察要素については肯定的にも捉えられますが登場人物たちはそうもいきません。誰しもすべての人物にバックボーンの描写が必要だった、あればよかったと思いました。
10人近い女性キャラはそれぞれにビジュアルだけでも魅力的ではありますが、あまりにも人物描写がなさ過ぎて、重要度の差はあれどアルへの言い寄り要因になり果ててしまっている人物が結構います。
どのキャラも役職紹介程度の削りに削り落とされた説明で片付けられていて、この描写不足により数々の出来事が背景が掴めない突拍子のないものに映ってしまいます。
それぞれの行動に対する目的や意図がわからず、読み取れず、結果的に何かを感じることも出来ないため感情を動かされることがありません。ただの文字でしかなくなっている場面が多々あります。
何回も書きますが、キャラクターデザインが良い分、本当にここがもったいないのです。惜しい…。
カイルについて
エピソードとして挙げると、デザイアの研究職員のカイル。
アルバート編での彼はただただいけ好かないやつで、マコト編に入っても取っている行動は特に裏があるようには感じられず、欲望のままに生きているゴリラです。ただしその行動には一貫性があり、隙のないクズを極めていて(そう描かれていて)、心の底から軽蔑出来てそれはそれで良かったのです。
しかし!
マコト編の最後の最後になって「なぜ今までマコトに対してそういった行動をとっていたのか」という理由をねちねち話し始めて「いいやつ」になろうとしてくるのです。迷惑極まりない(言い方悪い)。
ただその一方的な自分語りを聞いたところで「そうなんだ…」とは言えますが、プレイヤーが彼の性格を図るところは結局これまでに積み重ねられた不愉快な行動しかないわけで、今更そんなこと聞かされても何とも思わないというか…プラスに好転するほど彼のことをそもそも知らな過ぎる状態です。
にも関わらず!
カイルの突飛な告白が決め手となって、マコトがアルからカイルに乗り換えます。もう完全にこっち(プレイヤー)は置いてけぼりです。マコトの立場になれば分からなくはないのでしょうが、なおのこと描写で補完すべき部分であり、マコトとプレイヤーの温度感がすさまじいのです。
そしてこの展開を100歩譲って「マコトは最後までヤバいヤツだったなぁ…」とノリで飲み込んだとしても、この1件、まさかのストーリーに一切関係ないんです…。ただただマコトの評価を(さらに)下げているだけ、ドン引きさせるこの展開はなんだったのでしょうか!?(笑)
別にアルとマコトの純愛ものを見たいわけではありませんが、わざわざ無理やりにほかの男に心が動く(主人公を捨てる)という流れは(この程度の描写なら)個人的にはいらなかったなと。
前述のとおり、この流れがもっとゆっくりと段取りがあったり、いいやつ、やなやつ割合(配分)が違えば(そういうエピソードがあれば)カイルというキャラクターの印象は全然変わったでしょう。
そして彼の最期の行動にもっと感動や好意を抱くことができたのかもしれません。
惜しい:アルとマコトの関係
ここまで言ったら本末転倒なんですが、上記のカイルの件などを含め、アルとマコトが恋人であるという設定が全然生かされていなかったというか、必要性を感じませんでした(多分これもPC版の名残をなんとかしようとした結果だとは思いますが)。
2人の恋人設定で生み出されたのは、関係を破綻させるためだけに描かれた、無理やりすぎるすれ違いや嚙み合わなさというプレイヤーを過剰にイラつかせる描写だけでした。
ティーナの存在などあれど、最終的に2人の関係が継続されなかったというのはあとからいくらでも(エピローグで一言とかでも)片付けられるし、作中で無理に破綻させるエピソードを強調する必要性はなかったかと(描写がひどいので特に)。というかティーナの存在でうやむやになっちゃったって方が100倍納得するけどなぁ…。
良い:リマスターされていないムービー
ゲーム進行中に、時々に挿入される短いムービーは原作当時のもの(SS版)でリマスターされていません。
個人的にはこれが”時代”を感じたり、グラフィックがリマスターされている分、より当時を味わえる点として魅力的に映りました。
人によっては「古臭い」という評価になってしまうとは思いますが、綺麗な作品は山ほどあるのですから、筆者としてはこの古臭さをむしろ楽しむべし!と言いたい(小声)。
良い:後味
エンディングと後味については個人差があると思います(真っ二つの評価にわれるかと)。
筆者は基本的にはハッピーエンドものが好きですが、本作のバットエンドとまでは言わずとも余韻残しまくりの創造する未来があるラスト、このラストにする意味がある(本作に関しては安易なハッピーエンドはいらなかったと)と思えたのがよかった点です。
良い:制作熱意
本作は20年以上前のものになるわけですが、そもそもリマスターとして着手されただけではなく、作画を改訂したりと熱量がこもっています。
採算の面など我々プレイユーザーには見えない部分なのでなんとも言えないのですが、リマスター(リメイク)って基本的に母数(今でも遊びたいと思う人がいるか)が大事であって、そこに至るには当時それなりに売れているとか、評価が高いとか、知名度があるなどが挙げられると思います。
あわせて、筆者のように新たにプレイする可能性があるユーザーに対しても一定数見込むことが必要なわけで、リメイクやリマスターした作品いずれにも言えることですが、すべてを含めて発売されたこと自体に意味があると思えます。
良い:継承されたこと
最後に…本作がきっかけで「YU-NO」や「EVE」シリーズに引き継がれた、影響を与えたことがあると思えば、以降の作品のさらに練られたストーリーやシステム、とんでもないボリュームなど細部にまで行き届いた要素は今作があってこそだと思わされます。
すべての物語の「はじまり」と考えると、そういう点でも興味深く楽しめるかと!
まとめ
プレイ時間以上に感想記事に時間をかけてしまった本作。
さんざんマコト(編)を貶してしまいましたが、マコトの叩かれ具合はもはやネタ的な領域に達していて、ある意味魅力とも言えます。まぁ「(マコト編のせいで)あれこれ言われちゃう理由もわかるなぁ…」という面もありますが、評価されない部分も込みで作品の色だと思えました。
サクッと読み物ゲーがしたい人や、自分で物語を考えたい、嚙み砕きたい人におすすめのゲームです。
(C)HOBIBOX / el dia