「セカンドノベル~彼女の夏、15分の記憶~」の感想&レビュー第2弾です。ここではネタバレありのストーリーに踏み込んだ内容を書いていきます。
プレイ前/検討中の方は、ネタバレなしの感想&レビュー記事(こちら)や、プレイ前の予備情報記事(こちら)がオススメです。
ゲーム全体の感想
没入感
第1弾の感想&レビュー記事でゲームシステムの部分を先に紹介しましたが、文字や言葉(+静止画)では作品に単調な(シンプルな)イメージを持たれたような気もします。
しかし遊んでみてこその部分となってしまいますが、(直哉として)彩野との対話で一緒に物語を作っていく共同作業感。
”真相”を知らない彼が考察や推理を交えながら少しづつ核心に迫っていく、ぼんやりとしたものが形を成していく様をプレイヤーも同じ立場/感情で直哉に自分自身を重ねることが出来ます。
さらに直哉の行動によって、記憶を保持できない(17歳のままの)はずの彩野に起こる微細な変化の魅せ方も素晴らしく、同時に彼が抱く苦悩にも同情できたりと、物語全体としてプレイヤーとのシンクロ性が高いのが本作の魅力の一つです。
直哉にとって彩野は想い人であった(ある)こと。
しかし彩野が想っていた(いる)のはユウイチ。
そしてこの世にユウイチはもういない…。
この大前提を元に進められるかつての三角関係を引きずったままの今現在の救いのなさ、憤りなど胸を締め付けられる場面が多く苦しいものの、極めて現実的な向き合い方でプレイヤーが置いてきぼりになるようなことはありません。
ゲーム(作品)として、エンタメ的に起伏を求めた(大人の倫理観的に)嫌悪感を抱くような行動もたまにありはしますが、それも許容範囲といったところ。
典型的ではあるものの中盤の起点によってさらに物語に引きこむ演出、タイミングは素晴らしく、世界観としてのリアリティもそうですが物語への没入度は非常に高いです。
過程と転換
本作で印象に残ったのは「物語の運び」…ある時世界がひっくり返る衝撃。
進行中に薄々感じてはいたものの、直哉(主人公)が『彩野の作る物語』の世界に登場しないこと、その指摘から始まり増大する彼への不信感。
言われればその通りとはいえ、「(物語に一切登場しない)直哉が語る言葉は信用できるのか?」「彼の彩野への対処は正しいのか?」など、直哉のここまでの行動を疑うという裏切りとすら思える観点が突如制作側から投げかけられます。
これは、直哉が主人公的視点/プレイヤー目線である以上(そう思っていた以上)そこに疑うことはなかったというか…考えもしていなかったので筆者は衝撃を受けました。
実際にはこれが本作のシナリオライターである深沢豊氏の特徴的な作風でもあるようなのですが、初見の筆者はただただ単純に「こう来るかぁ…凄いなぁ…上手いなぁ…」とドスンとくらいましたね。
なによりこの疑念の提示によって以後「誰を信じていいのか」という単純な疑心暗鬼に始まり、登場人物たちの一挙手一投足が気になったり、「真実」と「嘘」の違いの見分け方、線引き、(完全に任された)判断。
どこまでが「現実」で、どこまでが「空想」なのか。
どれが「正解」で、どれが「不正解」なのか。
言い出すとキリがなく、物語の整理がより一層追い付かなくなり混乱は増すばかり(読む面白さは半端ないのですが…)。
たとえば…彩野があるタイミングで「ここからは(このエピソードは)本当のお話」と言ったりするのですが、それが明らかに嘘っぽいというか…間違いなく「全部が本当とは言えない」という感じなんです。
というか「ここからは本当」っていうのは…じゃあ今まではなんなの?(笑)みたいな話にもなるわけで。
それは彩野に限らず他の登場人物たちも言えることで、それぞれの発言の一部を搔い摘む難しさと取捨選択、そもそもそれらを考慮することになると本作の考察量はとんでもないことになっていきます。
結末
本作でもう一つ特徴的かつ衝撃的なことがあります。
それは、プレイヤーが追い求めていたはずの”真相…(制作側の)【答え】が提示されないということ。
この時点で「じゃあ遊ばない!」という人もいるのではないでしょうか?
かくいう筆者もこのことが先にわかっていたら本作を手に取っていなかったかもしれません。
明確な【答え】がない/出さないということに対してだけで言えば、プレイヤーに丸投げされた”ツメの甘さ”、”責任逃れ”のイメージを持ってしまうからです。
なにより最後まで遊んでスッキリできない=モヤモヤするのは嫌だな…クリアしてもその点は叩いちゃうかも…と思ったりして。
ただ声を大にして言いたいのは、本作に関してはあえて【答え】が提示されていないかつ、それが《作風》として納得出来る(片づけられる)ということです。
【答え】について言及すると、作品の立ち位置は”真相”に関する「パーツ」「キーワード」といった材料の提供、登場人物それぞれの視点や発言を得て、あとは《あなた自身》で物語を考えて/作って/整理して/飲み込んでというスタイルです。
むしろ、その個人に解釈を委ね/考察の余地を与え、悩むことすら楽しませることこそが本作の目的であると考えれば、提示された分量、どちらにも転ぶ言い回し、絶妙な投げかけなど、制作側のバランスのとり方はどれを取っても高いクオリティであると言えます。
もちろん【答え】がないことに対して「知りたい!教えて!」というモヤモヤは残ってしまいますし、それによって批判的な感想が出てしまうのも当然だとも思います。
ただここに対する受け取り方の違いで真っ二つに割れる評価もプレイした今なら面白いとさえ思えてしまう不思議。
あとエンディング(5年後)に関して、彩野の現実が現実のままで終わったのも(そう語られたのも)個人的には評価が高い点です。
フィクションだからというのもありますが、奇跡が起こってとか、原理はわからないけど…といった無理やりハピエン展開で彩野の記憶が戻ったり復活するようなことがあったら正直興ざめだったでしょうし、救いはないのかもしれませんが、場面を切り取り一喜一憂すれど、彩野の世界は変わらない。これが物語としてのリアルだと思います。
しいていえば「縛り」とか「宿命」みたいなものを印象付けている割に「直哉、お前なんなの…」となるラストではありましたが、これもある意味リアルだとも思いますし、前述のとおり場面一つをどう捉えるかはプレイヤーそれぞれの判断でどうぞ。といった印象です。
考察
結末を踏まえて言えるのは、《【答え】が決められていないからこそ、考察が面白い!》これが個人的な結論です。
”真相”に関する作中での疑問の数々、それらの考察を個人個人が進めた場合の「どの解釈も正解/不正解ではない」と言える視点の違いの面白さ。
どれか一つのこと(項目)をピックアップしたとて、自分は”A”だと思うけど、”B”でも成り立つし、”C”と言われても納得できる。といった具合です。
何よりそういう解釈の違いが生れる場面が非常に多く、それらが集まった先にはプレイヤーそれぞれの物語が出来上がっていることでしょう。
登場人物に関しても「誰の視点で見るか」「誰を立てるか」で各人の関係性や評価は大きく変わりますし、それは物語においても多大な影響を与えます。
たとえ結末が同じとて過程がまるきり異なるということも大いにあり得るでしょう。
このプレイヤーの数だけ生まれる考え方、捉え方から生み出される数多くの空想と壮大な広がり、持論も願望も価値観も贔屓もなんでも含めた《物語を作る》こと自体の味わい、とにかく新鮮な後味でした。
やや自由が利きすぎている(プレイヤーに委ねすぎている)節もありますが、これもまた”制作者の狙いであり答え”だといえるのではないでしょうか。
この作品をプレイした人それぞれの物語を聞いてみたい、解釈談議に花を咲かせたいと思うばかりです。
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