季節を外しかけ遅くなってしまいましたが、やるドラ四季シリーズレビューの最後を締めくくる【冬】の1作「雪割りの花」を紹介します。
やるドラ【春】の1作 ➡『季節を抱きしめて』
やるドラ【夏】の1作 ➡『ダブルキャスト』
やるドラ【秋】の1作 ➡『サンパギータ』
「雪割りの花」とは…?
今回紹介する「雪割りの花」は、1998年にPS用ソフトとして「ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)」より発売されたアドベンチャーゲームです。のちにPSPに移植されダウンロード配信もされています。
CEROは15歳以上対象の[C]。
本作は【やるドラシリーズ】として、季節(四季)をテーマに制作された(PS用ソフトの)4作品のうちのひとつで、冬を舞台にした1作です。モチーフになっているのは《雪割り草(ゆきわりそう)/ミスミソウ》…雪を割って春の到来を知らせてくれる山野草。
ちなみに【やるドラシリーズ】は4作品とも1998年に発売されており、本作は季節通りの4作目として11月末(12月直前)に登場しています。
そして今作は前作「サンパギータ」に引き続き、主人公に音声がついており、プレイヤーが客観的に見ているドラマ感が増しています(好みはあると思いますが…)。
【やるドラ】とは…?
そもそも【やるドラ(シリーズ)】とは…「みるドラマから、やるドラマへ」をキャッチコピーとした、①全編フルアニメーションが、②アドベンチャーゲームの要素/度々挟まる多数の選択肢(プレイヤーの選択)を絡めて展開していく物語(ドラマ)を楽しむことが出来るという、1度で2度おいしいコンセプトです。
シリーズは全作品とも企画・原作・アニメーション制作を「Production I.G」が担当しているという豪華さで、季節を主軸としながらも、ストーリー/デザイン/音楽等の要素が作品毎に異なっており、全く印象の違う作品に仕上がっています(それぞれ単体のお話です)。
プレイヤーが決断した数々の選択の結末はグッド/バッドとして本作は「37個」のエンディング、(バッドは特に)バラエティに富んだ内容で準備されています。
そして本作は他のシリーズ3作品と異なりグッドでもバットでもないノーマルエンドが存在しておらず、その分バットエンドが圧巻の「32個」です(他作品のバッドエンドは20個以内)。
作品のテーマ(要素)からバットエンドが多くなるのは(大多数は)必要なものと理解できますが、とはいえ達成率やエンディングコンプリートを目指そうものなら中々の鬱展開を味わい尽くさなければなりません。
1周当たりのプレイ時間はそれぞれのエンドで大幅に変動し、序盤の選択肢で終わってしまう5分程度のもの(主にバッドエンド)もあれば、グッドエンドは1時間以上かかります。ボイスをどこまで聞くか、スキップを駆使するかなどでも変動します。
システム
周回は必須の(周回を楽しむ)作品ですが、その点の利便性としては、選んだことがある選択肢(の展開)はスキップ(早送り)が可能、最序盤にショートカット選択が可能と周回におけるストレスは低め、遊びやすいものであるといえます。
スキップとショートカットを駆使して、エンディングをほとんど埋めた場合のプレイ時間は約10時間。セーブスロットは5つ(PS)です。
ストーリー
その①
冬が迫る北国。
大学生の主人公(名前変更可)は、友人から誘われて参加した合コンをあからさまな付き合いで片づけ、途中帰ってくる始末。理由は隣の部屋に住む年上のOL、桜木花織(さくらぎかおり)に恋をしてしまっているから…。
そんな家路を急いだ主人公だったが、部屋の前で彼女と恋人の伊達昂(だてたかし)が抱き合っているところを目撃してしまう…。
彼女にとって主人公は弟のような存在。
2人の関係はおとなりさん止まりで主人公の片思いでしかなかった。
その②
事件が起きたのはそれから5日後…。
突然のドアチャイムに起こされた主人公が応対するとそこには2人の警察官が立っていた。
花織が病院に運ばれたと伝えられた主人公は、理由も聞かないままに部屋を飛び出し病院へ急ぐ。
病院のベットに眠る花織について医者から伝えられたのは「心因性記憶喪失」…精神的な衝撃から彼女があえて記憶を失った(一時的に忘れている/思い出さないようにしている)可能性があるいうこと。
数日後…目覚めた花織に「飼っている文鳥にエサをあげて欲しい」と頼まれた主人公は彼女の部屋に入り、伊達昂が出張先の海外で事故で亡くなったという留守電を聞き、これが花織の記憶喪失の原因であることを知る。
その③
恋人を失った花織を想い、献身的に看病を続けた主人公と彼女の距離が縮まっていたかに思えていたある日…。
花織が主人公に向けた言葉は、彼が昂だ(と自身が忘れてしまっていた)という誤認であった。
しかし彼女の記憶をこれ以上刺激しないため、不安定な状態にしないため、なにより好意から否定することは出来ず、主人公は昂になり代わり彼女を騙して共に生きることを決意するのだった…。
あれこれ感想
シリーズラスト
本作は「やるドラ(四季)シリーズ」の4作目、最後になりますが、シリーズに共通した要素である『「大学生の一人暮らしの主人公(男)」と「記憶喪失の女性(ヒロイン)」が交流する物語』は健在です。
ただ、シリーズの他の3作品が《初対面》の記憶喪失の女性との偶然の出会いから始まるのとは異なり、本作ではアパートの隣の部屋に住む《面識のある》女性が記憶喪失になるという、シリーズ自体のテーマは踏襲しながらも、要素が違うことが特徴のひとつと言え、新たな印象を持って遊ぶことができます。
メインヒロインが年上(しかも恋人持ち)、主人公が(既に)好意を抱いている、共同生活をしない(隣人)というのもこれまでと違った設定です。
キャラグラ
本作の特徴ともいうべきは、(残念ながら)間違いなく万人受けすることはない、キャラクターグラフィック等々のテイスト。
ユーザーが手に取る際に第一印象が何よりも大事だということを体現しており、遊ばずして評価されてしまっている節もあります。
その結果としてネットの世界でも感想すら中々出会えない状況になっているわけですが、このキャラグラの点で”だけ”本作を遊ぶことを敬遠しているというのであれば、個人的にそこは一旦置いておいて(笑)、遊んでみて欲しいと思います。
シリーズ随一の重いストーリーから好みが分かれてしまう作品ではありますが、コンセプトを生かした点での完成度は低くはないです。バッドエンドにしっかり心を抉られるのですから…。
CV担当は、主人公…檜山修之、ヒロインの桜木花織…日髙のり子、伊達昂の友人であり2人を見守る小林勇一…堀内賢雄と非常に豪華です。
ちなみに…2021年に日髙のり子氏が歌手活動40周年を迎えた際のインタビューにて、「雪割りの花」と花織について少し話されており、印象に残っている役とのこと。マイナー作品だけに意外ではありつつも(笑)、興味深いコメントが残っています。
舞台設定
個人的に印象に残った要素は、舞台となった坂、港(海)、路面電車、石畳が印象的なレトロさを感じる北国の街(北海道/函館)の風景。
シリーズで唯一(作中でも)舞台が語られており、実在の街やスポットも描かれています。
そんな日々の経過、季節の深まりが積雪や薄曇りの天気による寒々しさとともにストーリー展開にリンクし、積み重なっていく主人公の晴れない重苦しい心情を描くことで、より雰囲気を醸し出しています。
リアル思考(だと思う)
本作は【片思いの女性の彼氏のふりをして(代わりとなって)彼女を騙す】ことが主題となっており、記憶を無くし誤認した状態の花織から、彼氏としての行動を要求される様はプレイヤーに困惑を生みながらも同時に興奮させられることも否定できません。
花織の彼氏である昂は、彼女より年上の海外を飛び回る外資系会社員であり、共通点のない(語られていない)大学生の主人公がそんな人物に成り代わることや花織が気付かないことに引っ掛かりを感じるものの、その点は「献身的に世話をした主人公に対して恋人に対するものと同様の感情を彼女が抱いた」とされています。
これは理由として語られていることも含め(一応は)納得出来るものだと思います。
実際、彼女は主人公を昂と思ったことで最悪の行動を回避したわけで、以後は主人公(プレイヤー)の選択次第…選択肢の間違いによって彼女が記憶を取り戻してしまおうものならあっという間にバッドエンドゆきです。
主人公が彼女に好意を抱いている点に着目し、騙すことで欲求を満たしていると思われがちな面もありますが、主人公が取った行動以外に彼女を救う(生かす)ことは出来なかったということは理解できるはずであり、行動そのものに「それしかない(なかった)」という仕方なさを感じる点からリアルな思考だと個人的には思いました。
はじめこそ多少の下心があったかもしれいない主人公も『彼女が自分の事を昂と思っている』ことによって、彼女からむけられる好意に徐々に苦しみを抱えていきます。
2人の距離が縮まっていくほどに『昂に対する花織の想い』を知り、それを受け取った主人公の心が蝕まれていく描写は分かりやすく、特にバットエンドの1つに主人公が心を病んでしまうというのも、起こり得る展開として説得力が増すものでした。
主人公が最後に下す決断…花織の記憶とこれからの関係を決めるのはプレイヤー自身です。
カギになるのは冬を超え春を伝える《雪割り草》
個人的に、シリーズの中で一番エンディング(グッドエンドの5つ)の表現が好きな作品でした。
今「雪割りの花」を遊ぶなら?
2023年現在、本作を遊ぶには主に3種類の選択肢があります。
①:PS版のディスク
②:PSP版のUMD
③:PS Vitaでダウンロード版(PSP版)
ちなみにPS版は安価(PSソフト全体から見ても安価)で手に入りますが、PSP版は(何故か)高騰しています。
両方で遊んだ筆者的にはPSP版はUMDの読込音(シャーシャー音)が作品の性質上、頻度が高いこともあって物語への没入を削いでいる気がしました。遊ぶだけの目的(遊ぶことの快適さと値段)に重点を置くのであれば、①/③が圧倒的におすすめです(①はディスクの出し入れ作業が発生しますが…)。
PSP版(UMD)が高騰しているのはおそらくコレクター的なところによるものと思われ、内容は文字が綺麗になった(らしい)程度でしかないのでご心配なく(追加されたエピソードなどはありません)。
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