以前、季節真逆をネタに(真夏に真冬の作品)「かまいたちの夜」を紹介しましたが、今回は季節そのままに【春】の作品「季節を抱きしめて」を紹介します。
やるドラ【夏】の1作 ➡『ダブルキャスト』
やるドラ【秋】の1作 ➡『サンパギータ』
やるドラ【冬】の1作 ➡『雪割りの花』
「季節を抱きしめて」とは…?
今回紹介する「季節を抱きしめて」は、1998年にPS用ソフトとしてソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)より発売されたアドベンチャーゲームです。のちにPSPに移植されダウンロード配信もされています。
CEROは15歳以上対象の[C]で、シンプルかつ判定に相当する表現を含んだ恋愛色の強い物語です。
本作は【やるドラシリーズ】として、季節(四季)をテーマに制作された(PS用ソフトの)4作品のうちのひとつで、春/桜(サクラ)がテーマとなっています。
ちなみに【やるドラシリーズ】は4作品とも1998年に発売されていますが、四季順ではなく本作は2作目として7月に登場しています。
正式タイトルは「やるドラシリーズ Vol.2 季節を抱きしめて」です。
【やるドラ】とは…?
そもそも【やるドラ(シリーズ)】とは…「みるドラマから、やるドラマへ」をキャッチコピーとした、①全編フルアニメーション(主人公以外ボイスあり)が、②アドベンチャーゲームの要素/度々挟まる多数の選択肢(プレイヤーの選択)を絡めて展開していく物語を楽しむことが出来るという、1度で2度おいしいコンセプトです。
シリーズは全作品とも企画・原作・アニメーション制作を「Production I.G」が担当しているという豪華さで、季節を主軸としながらも、ストーリー/デザイン/音楽等の要素が作品毎に異なっており、全く印象の違う作品に仕上がっています(それぞれ単体のお話です)。
プレイヤーが決断した数々の選択の結末はグッド/ノーマル/バッドとして本作は「27個」のエンディング、(バッドは特に)バラエティに富んだ内容で準備されています。
1周当たりのプレイ時間はそれぞれのエンドパターンにより大幅に変動し、序盤の選択肢で終わってしまう5分程度のもの(主にバッドエンド)もあれば、グッドエンドは1時間以上かかります。ボイスをどこまで聞くか、スキップを駆使するかなどでも変動します。
他にもストーリーにおける共通の要素として『「大学生の一人暮らしの主人公(男)」と「記憶喪失の女性(ヒロイン)」の出会い』をはじまりとしたものになっています。
あらすじ
季節は春。
大学の構内を歩く主人公と同級生のトモコは「悲恋桜」と呼ばれる満開のしだれ桜の下で倒れている女の事に出会う。
見覚えのない制服を着た彼女は自分の名前も身の上も分からないという記憶喪失状態であった。
かつて想いを寄せていた”麻由”という女性に瓜二つの顔の女の子を前にした主人公は、(ひょんなことから麻由と名乗るようになる)彼女のことを気にかけ、記憶を取り戻そうと交流していくことになる。
そんな世話焼きな主人公に徐々に好意を抱いていく記憶喪失の麻由(仮)。
反対に予備校時代から主人公に好意を抱いている大学の同級生トモコ。
さらには主人公の住むアパートの住人の綺麗なお姉さん」を巻き込んだ恋模様が春を告げていた…。
ちなみに…ご察しだとは思いますが「綺麗なお姉さん」は名前すら準備されていないという、おまけ程度の存在です(それでも個別ルートはありますし存分に楽しむことは出来ます)。
あれこれ感想
キャラクターの魅力
物語は主人公が記憶探しを手伝うことをきっかけに距離が縮まっていく記憶喪失の女の子(主人公主導)と、それを知って嫉妬(やきもち)を隠さず投げつけてくるトモコ(主人公受け身)、主人公(プレイヤー)は「どちらとの関係を深めていくか(どちらを選ぶか)」ということが、《恋愛の立ち位置》を絡めた主軸となっています。
見た目/印象/言動なにもかも極端な2人のため、顔/性格の好みや豪華CVも相まって初めから悩まずにどちらかに決まってしまうところもあるでしょう。
それでも2人に良い顔をする「八方美人な主人公でいたい!」というプレイヤーの心を見透かしたような本能的に選びたくなる選択肢も存分にあり、筆者は選択肢の度に散々頭を悩ませ(いい意味で)ざわざわした気持ちも味わいました(選択肢に制限時間があったら大変なことになっていたでしょう)。
なにより2人は違った魅力とギャップが描かれており、それぞれのエピソード、それぞれと歩んでこその第一印象だけではなく「知ろうとすること(踏み込むこと)が大事」という点を痛感させられる味わい深さが詰まっています。
ゲーム性
本作は基本的に想像しうるアドベンチャーゲームらしく、物語にベース(チェックポイントと強制イベント)がありながらの部分的な選択肢(介入)とそれに付随する会話劇の違いといった流れではあります。
しかし展開の中心が真っ二つ(記憶喪失の女の子か、トモコか)になるからこそ、プレイヤーの選択が反映された言動/行動の結果が女の子それぞれに重点が置かれた道筋となっており、その過程の描写を堪能することが出来ます。
ちなみに大人になってから本作を遊んだ筆者は、麻由との運命的な出会いも捨てがたいものの、長く想い続けてくれていたトモコのむき出しの不器用さにじわじわと引き寄せられたのですが、プレイヤーの年齢や性別(その他もろもろの要因)によってキャラクターへの印象が変わりそうなところと、そのピンポイントな描写がセリフ一つ取っても「上手いなぁ…」と抉られました。
たとえば筆者が10代の頃に本作を遊んでいたならトモコに対してイラついていたか、怖いと怯えていたことでしょう。それが今は愛おしいと思うんですから、「人生経験って…大人になるってこういうことかもなぁ…」と偉そうに悟ってみたりもするわけです(笑)
あと「『エヴァンゲリオン』はミサトさん派だ!」という方にトモコは(いい意味で)おもいっきり沼ることもお伝えしておきます。
分岐における選択肢は比較的に分かりやすい(想像しやすい)もので、(エンディングリスト埋め目的の細かな部分は難しいですが)目指す先に対して真っすぐにシンプルな解釈が可能、攻略という難易度は高くはありません。
結果として選んだ行動とその流れに対して納得することが出来るため、全体を見た時の不整合や温度差も生まれる場面はなく(少なく)、物語への没入度も高めです。
周回は必須の(周回を楽しむ)作品ですが、その点の利便性としては、選んだことがある選択肢(の展開)はスキップ/早送りが可能、最序盤にショートカット項目あり。と周回におけるストレスは低め、遊びやすいものであるといえます。セーブスロットは5つです。
コンプリート要素は、【エンディングリスト】と【達成率(%)】があります。
【エンディングリスト】は攻略サイトの手を借りれば楽なものですが、「27個」=最低27周が必要ということです(数分で埋まるものもあるのでプレイ時間はまちまち)。
【達成率】は細かなセリフ(エンディングは同じでも選択肢の組み合わせで変わる)の違いが影響する読了を表すもののため、達成率100%を目指すとなると中々な作業量になるかと思います(攻略サイトは見かけます)。
舞台や時代背景
舞台となっているのは「山間の地方都市」と明確な場所は明かされていませんが、主人公が生活する街並みには味わい深い雰囲気があり、作画の完成度もあって世界観が確立されています。
ゲームが制作された90年代後半を(今となっては)知ることが出来る小物も随所に見受けられ、当時(のドラマの雰囲気)を存分に感じることが出来ると思います。
当時を知る人/同年代を生きていた人には(こちらも今となっては)”懐かしさ”も魅力の一つではないでしょうか。
リアリティ
前述したとおり4作品ある【やるドラシリーズ】の中でも、本作は桜にまつわるファンタジー要素が含まれているものの全体を通しては日常味が強く、良く言えばシンプルな恋愛絡みのリアルさに感情移入がしやすい物語に仕上がっています。
特にシリーズの他作品が、サスペンスやバイオレンスなどインパクトの強い、起伏の多い要素だというところもあっての印象だといえます。これは個人の作風の好みもあると思うので、日常味が強い=(歳月が経過したときに)作品に対する印象が薄い(残っていない)と巷でいわれる要因でもあるのかもしれません。
とはいえ、シリーズだからとその中だけで優劣(順位)をつける必要はないので、【やるドラシリーズ】に興味を持った方がいらっしゃれば、本作に限らずどの作品からでも楽しめますので、手に取った作品に触れて、遊んで貰えればと思います。
今「季節を抱きしめて」を遊ぶなら?
2022年現在、本作を遊ぶには主に3種類の選択肢があります。
①:PS版のディスク
②:PSP版のUMD
③:PS Vitaでダウンロード版(PSP版)
ちなみにPS版は安価(PSソフト全体から見ても安価)で手に入りますが、PSP版は(何故か)高騰しています。
両方で遊んだ筆者的にはPSP版はUMDの読込音(シャーシャー音)が作品の性質上、頻度が高いこともあって物語への没入を削いでいる気がしました。遊ぶだけの目的(遊ぶことの快適さと値段)に重点を置くのであれば、①/③が圧倒的におすすめです(①はディスクの出し入れ作業が発生しますが…)。
PSP版(UMD)が高騰しているのはおそらくコレクター的なところによるものと思われ、内容は文字が綺麗になった(らしい)程度でしかないのでご心配なく(追加されたエピソードなどはありません)。
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