暑い毎日が続いていますが、今回はやるドラシリーズより【夏】らしい1作「ダブルキャスト」を紹介します。
やるドラ【春】の1作 ➡『季節を抱きしめて』
やるドラ【秋】の1作 ➡『サンパギータ』
やるドラ【冬】の1作 ➡『雪割りの花』
「ダブルキャスト」とは…?
「ダブルキャスト」は、1998年にPS用ソフトとしてソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)より発売されたアドベンチャーゲームです。のちにPSPに移植されダウンロード配信もされています。
CEROは12歳以上対象の[B]。
本作は【やるドラシリーズ】として、季節(四季)をテーマに制作された(PS用ソフトの)4作品のうちのひとつで、【夏】を舞台にサークル活動や恋愛の瑞々しさとサスペンスホラーの融合を味わえる1作です。
ちなみに【やるドラシリーズ】は4作品とも1998年に発売されていますが、四季順ではなく本作が記念すべきシリーズ1作目として6月に登場しています(2作目が”春”が舞台の「季節を抱きしめて」)。
正式タイトルは「やるドラシリーズ Vol.1 ダブルキャスト」。
【やるドラ】とは…?
そもそも【やるドラ(シリーズ)】とは…「みるドラマから、やるドラマへ」をキャッチコピーとした、①全編フルアニメーション(主人公以外ボイスあり)が、②アドベンチャーゲームの要素/度々挟まる多数の選択肢(プレイヤーの選択)を絡めて展開していく物語を楽しむことが出来るという、1度で2度おいしいコンセプトです。
シリーズは全作品とも企画・原作・アニメーション制作を「Production I.G」が担当しているという豪華さで、季節を主軸としながらも、ストーリー/デザイン/音楽等の要素が作品毎に異なっており、全く印象の違う作品に仕上がっています(それぞれ単体のお話です)。
プレイヤーが決断した数々の選択の結末はグッド/ノーマル/バッドとして本作は「27個」のエンディング、(バッドは特に)バラエティに富んだ内容で準備されています。
1周当たりのプレイ時間はそれぞれのエンドパターンにより大幅に変動し、序盤の選択肢で終わってしまう5分程度のもの(主にバッドエンド)もあれば、グッドエンドは1時間以上かかります。ボイスをどこまで聞くか、スキップを駆使するかなどでも変動します。
あらすじ
その①
大学のサークルの飲み会終わりに繁華街の路上で酔いつぶれてしまった主人公。
そんな主人公を介抱してくれた女の子の声で目覚め、お礼にと一緒にコーヒーを飲みにいった席で、突然告白されたのは、彼女が記憶喪失だということ。
「赤坂美月(あかさかみつき)」という名前以外は思い出せないことを告げられ、そんな彼女の身を心配した主人公は、海外旅行で不在中の叔父宅に居候=一人暮らしの家に美月を泊めることを提案し、彼女もそれに乗ってくる。
急加速で決まった2人の共同生活は、美月の身の上を調べながら(終わりが決められていない中で)営まれていく。
その②
そんなある日、主人公が所属する映画研究会(大学のサークル)にて、部長の篠原遥から学園祭用の企画として、いわくつきの脚本『かこひめの寝屋(かこいめのねや)』の映画製作が言い渡される。
採用理由は映画研究会の学内での評価の低さを払拭することや、プライベートフィルム賞へのインパクトのため。
『かこひめの寝屋』の物語は、ある男が”囲い女(愛人)”を拾ったことに始まり、女は関係が深まる中で徐々に男の全て(金銭から精神肉体までも)を支配していくことになるというもの(=バッドエンド)。
さらに10年前に映画を製作しようとした際の主演女優はシナリオにのめり込み、映画と現実の世界の区別がつかなくなる事態に。そして彼女を恐れて部員が離れていく中で唯一撮影を続けていたカメラマンは作中のラストシーン同様に主演女優と共に心中したという…。
これがいまだ学内に知れ渡っており、誰もやりたがらない主演女優探しが難航する中、主人公は美月に出演を依頼し、紹介された遥(部長)もこれを承諾する。
その③
美月は映画研究会の部員たちと出会い交友関係が広がっていくが、その中で『かこひめの寝屋』の相手役(男優)である佐久間良樹は美月を紹介されて非常に驚いた様子を見せる。
さらに帰り道で正体不明のオートバイから命を狙われる美月。
翌日、映画撮影が始まる前に部員全員で向かった10年前の主演女優の墓参りで、二村英樹(主人公の同期)が見つけたのは「赤坂美月」の名が彫られた赤坂家の墓石。
『かこひめの寝屋』にまつわる「”(囲い)女”を拾った男の話」や「(10年前の)主演女優とカメラマンの関係」が美月と主人公に重なりを見せるなど、映画製作への参加から撮影が進む度に深まる美月の正体への謎。
加速するお互いの好意の先には何が待っているのか…。
あれこれ感想
テンポの良さ/完成度の高さ
【やるドラ(四季)シリーズ】内での比較だと世間的には1番人気がある印象の本作。
【記憶喪失の少女】/【『かこひめの寝屋』(にまつわるいわく)】/【命を狙ってくる黒幕】と情報量は多めですが、そのどれもが無駄なく生かされています。
物語のテンポの良さ、サスペンスホラーとしての伏線の張り方、情報開示のタイミング、のちに明かされるトリック(裏付け)など構成における完成度の高さには(好みはさておいても)評価共々納得の出来です。
本筋としては、(命を狙われた)黒幕を探す推理の面での選択が多くありますが、プレイヤーの判断によって変わる犯人(黒幕)とその要因となった背景はそれぞれに異なるなどバリエーションも豊富。
特に『ダブルキャスト』というタイトルに隠された真実、解釈の多さはグッドエンドはもとより、ノーマルエンド、バッドエンドを見ることでより深く味わえます。
戦慄/狂気描写もCERO以上に攻め込んでおり、中盤~終盤の緊張感は中々のもの。サイコ味もありルート次第で結構グロかったりもします。なんせ「ドアノブが照れている」のですから(意味深)。
全身で感じられる瑞々しさ
本作の主人公は大学のサークルに参加しており、活動を中心とした物語であることから交友関係は広く、別荘地に撮影旅行に行くなどアニメ(フィクション)であることを存分に生かした願望てんこ盛りの(当時を味わえる)等身大のキラキラリア充が描かれています。
恋愛とサスペンスの融合、サークルの騒がしさと2人の時間のイベントによるメリハリとそのタイミングも良かった点で、シリーズの他作品がジャンルを含めて割と閉鎖的、スモールワールドであることからも本作の賑やかな描写は非常に眩しさがありました。
キャラクターの魅力
後藤圭二氏によるキャラクターデザインは、なんといってもヒロインである赤坂美月(CV:平松晶子)が、ビジュアルも性格も非常に魅力的に描き出されています。
美月のちょっとあざとめではあるものの、いいところを突いてくる絶妙な距離感の言動、行動、押し引きのうまさに(女性である筆者も)何度も、にやにやへらへらしてしまいました。
圧倒的ヒロインという立場(描写)というのもありますが(部長もいいですけどね…)、プレイヤーが美月への好意に選択肢を全振り出来るほどの可愛さと、こちらの熱量に相応に答えてくれる彼女の応対は、ヒロインが複数いなくて本当に良かった…と安堵したほどです(ただ下心見せ過ぎ、心配し過ぎると危険)。
システム
周回は必須の(周回を楽しむ)作品ですが、その点の利便性としては、選んだことがある選択肢(の展開)はスキップ(早送り)が可能、最序盤にショートカット選択が可能と周回におけるストレスは低め、遊びやすいものであるといえます。
スキップとショートカットを駆使して、エンディングをほとんど埋めた場合のプレイ時間は10時間以内。セーブスロットは5つ(PS)です。
今「ダブルキャスト」を遊ぶなら?
2022年現在、本作を遊ぶには主に3種類の選択肢があります。
①:PS版のディスク
②:PSP版のUMD
③:PS Vitaでダウンロード版(PSP版)
ちなみにPS版は安価(PSソフト全体から見ても安価)で手に入りますが、PSP版は(何故か)高騰しています。
両方で遊んだ筆者的にはPSP版はUMDの読込音(シャーシャー音)が作品の性質上、頻度が高いこともあって物語への没入を削いでいる気がしました。遊ぶだけの目的(遊ぶことの快適さと値段)に重点を置くのであれば、①/③が圧倒的におすすめです(①はディスクの出し入れ作業が発生しますが…)。
PSP版(UMD)が高騰しているのはおそらくコレクター的なところによるものと思われ、内容は文字が綺麗になった(らしい)程度でしかないのでご心配なく(追加されたエピソードなどはありません)。
その他の【やるドラ】感想記事
★やるドラシリーズ”春”の1作「季節を抱きしめて」の紹介記事(↓)
★やるドラシリーズ”秋”の1作「サンパギータ」の紹介記事(↓)
★やるドラシリーズ”冬”の1作「雪割りの花」の紹介記事(↓)
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